彫刻家、三澤憲司は、山川草木と変幻自在に戯れ、その喜びを石や木や土に託して謳う
歌人である。
この「走り雨」は、春や夏の晴天下に急に降りはじめて瞬く間に降りやむ雨の情景を、
白御影石とステンレス棒で形に表した彫刻である。
福山城とその石垣の美しさをよりひき立たせるために、石の高さをおさえて横に広く空
間を用い、遠く福山城を借景にして奥行を際立たせ、いわば雨の石垣を築いたといえる。
この石による歌は、作者が福山城とそのまわりの環境に実際に身と心と意思を投げ入れ
て初めて自然に生まれたものともいえる。
まばゆいばかりの白さを見せるこの石は、茨城県の稲田石で、日本で採れる最高の白御
影石のひとつである。地下五十メートルから採石され、石英の透明度が高く、黒雲母が一
定の割合で入っているためその模様が均一なのが特徴である。
「つくらずにつくる」という作者の考えはこの彫刻にも生かされている。事実、これに
はほとんど人の手が入っていない。
石を割るために石の目にそって穴をあけ、そこにせり矢を入れて石を半分に割った跡に
半球状の窪んだ道ができる。そこにステンレス棒をはめこみ雨とし、上部にのみを入れて
雲をつくり「走り雨」が生まれた。
六年の年月が過ぎ、湿気を含む処には苔が生え、雨の日には青灰色の濡れ色が目を楽し
ませてくれる。彫刻は日々成長を続ける。それは人の一生より遥かに長く無限の歌を刻ん
でいくのである。(石井 太)
彫刻《走り雨》(作者:三澤憲司)は「‘89ふくやま彫刻プロジェクト」(企画:石井太)
により1989年、福山城公園の西側パークロード(広島県福山市西町2丁目)に設置。
「走り雨」 『月刊HIROSHIMAけんみん文化 第十一巻第七号』p.10財団法人県民セ
ンター文化情報課1995年10月1日