葉も枝も、光をあびて
浅見貴子さんは、ころころと筆を転がす独特のストロークで描きます。墨と胡粉で描かれた葉と枝の複雑に交差する空間。黒と白の世界に、きらきらと光あふれて、木々が息づきます。
筆を転がして描き始めたのは、偶然、学生の時、和紙の滲み留めのためにする「どうさ引き」*に失敗して、そのまま描き込むと紙がぼろぼろになるので、筆の穂先を寝かせてころころ転がすストロークを思いついたんです。その方法でさまざまな表現を試みてきました。ころころと転がしたうねうねした線は、裏返してみると筆の留まったところに墨が滲み出して連続した点になるので、鑿の跡みたいになっていきます。このストロークを生かして、水の中のイメージや、空気の厚み、植物のまわりの大気みたいなものを描いてきました。
筆を転がしてでできる点にはリズムがあって重ねていくと奥行きも生まれます。その点と、樹木の構造を組み合わせようと思って、枝の広がりを観察し易い柿の木を選びました。柿の木は幹から枝分かれして、血管のようにも見えるし、水脈でもあるので、「脈」というタイトルが浮かびました。2000年のことです。
身近な樹木を観察しているうちに、グチャグチャに見えていた枝の重なりも、複雑な空間として画面に置き換えられるようになりました。枝の伸びる形、光の当たり方、影、葉が透けて見えたり、風で揺れたり。写生をしていて、夕方に枝の前後関係が判別できなくなった時、光を見ていたんだ、と思ったんです。午前中の光はとても澄んでいて、形が良く見えて描き易いんです。強烈な光も面白いし、月明かりだと気配が強くなる感じ。
最近の作品はほとんど裏側から染み出させて描いています。ガラス絵のように、手前から描いて、乾かして、だんだん奥を描くんです。重ねることで奥行きを出す感じです。先に描いた部分には墨が染み出ないので、裏側で描き込んでも、表側から見ると、最初に描いたものがいちばん前面に出てくるのです。ぱっと表に返した時、左右は逆転しますし自分の絵が新鮮に見えるんです。
柿の木や松や梅、木の構造によって自分だけでは作れない空間が生まれて、木のお陰でいろんな絵が出来てきます。描き尽くせないという気がしています。(浅見貴子・談)
*膠液を薄めて、微量の生明礬を溶かしたどうさ液を刷毛で和紙に引くこと。